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【備忘録】YouTube動画削除 異議申し立て経緯まとめ

2020年12月17日 20:14 

S-TRIBE代表の津久井箇人です。2020年11月26日に発生しましたYouTubeにおける当チャンネルの動画削除において、明らかな不当性があったため異議申し立てを実施しました。結果、同年12月14日に異議申し立てが受理され、削除された動画が復元しました。この一連の出来事が「泣き寝入り」を防ぎたいYouTubeユーザーにとって有益な情報になると考え、どのように対応したかまとめ、備忘録として残しておきたいと思います。

 

▲一度削除され、復元された動画

 

▲実際に届いたメール

 
 
■YouTubeの(国内の)運営は頼りにできない
最初に言っておきます。YouTube(Google)の窓口は頼りになりませんでした。その窓口自体も、YouTubeのチャンネルが収益化できている人にしか開かれていない小さなものなので、多くの人はウェブ上に掲載されている「よくある質問」を見ることまでしかできないと思われます。「S-TRIBE Channel」は一部動画を収益化しており、窓口に問い合わせることができました。今回の動画削除は不当であるという確信があったため、細かな状況説明と対応の相談をしました。

しかしながら、明確な回答はしてもらえず、どのような質問・相談をしても、米Googleの権利関係のサポート窓口を案内されるだけでした。米Googleのその窓口は日本語に対応していないため、そこで具体的にどのようなサポートしてくれることが考えられるのか、国内の窓口にも質問してみたのですが、それについてもまったく答えてもらえませんでした。ちなみに、国内には著作権関連を相談できる窓口は一切ないとのことです。

ザックリ言ってしまうと「そっちで解決しろ」と突き放されてしまいました。さすがに酷いなと感じました。立場を偽装して不当に広告収入を得たり、今回のように不当に動画削除したりといった問題がYouTubeから減らない理由は、正直こういう部分にあると思います。せめて国内向けに著作権関連の相談窓口を用意してもらいたいものです。

YouTubeの国内運営がまったく頼りにできないことがわかったので、結果的に「立場を偽装する犯罪者である可能性が高い相手」とリスクのあるやりとりをしなければならなくなりましたが、私たちは泣き寝入りしません。

 
 
■削除理由は著作権侵害
まず、削除理由となっている「著作権侵害」ですが、当該動画はYouTubeにおいて著作権侵害行為にあたりません。理由は以下の通りです。

 

・JASRACとYouTubeはインタラクティブ配信において包括契約を結んでいる
・当該楽曲は、JASRACにおいてインタラクティブ配信が管理されている
・(CDの音源など)原盤を使用していない

 
より詳しく知りたい方は、JASRACで管理されている楽曲がどのような状況になっているか検索できる同団体のウェブサービス「J-WID」を利用してみてください。使用したい楽曲がJASRAC以外の団体に管理されている可能性もあるので、JASRACで見つからない場合は「音楽著作権管理団体」などでググってください。いくつか団体がありますが、役割は概ね同じなので、YouTubeで正規にカバーできるか調べられると思います。

 
 
■削除の申請者は音楽出版社を名乗る
次に、削除の申請者が音楽出版社を名乗っている点についてです。これに関しては、今回の当該楽曲の権利を有する会社の名義でしたので、本来は何の問題もありません。正規の権利者から連絡を受けた場合は、なぜ著作権侵害行為となったのか、権利者と十分に話し合う必要があります。異議申し立てをする前に、メールなどで連絡を取ることが可能なので、まずは話し合いをすることが大事であると思います。

しかし今回のケースでは問題は別にありました。結論から述べると、申請者は当該楽曲を管理する音楽出版社を名乗った偽物でした。

これについては複数の疑問点があり、このような結論に至った次第です。最も大きな疑問点として、先方の連絡先があたかもJASRACが管理しているかのような偽装を施したGmail(フリーで取得できるアドレス)であったことです。具体的には jasrac.sakujo@~ というアドレスでした。音楽出版社という法人であれば、自社ドメインのメールアドレスを提示してくるのが自然でしょうし、仮に小さな会社のために自社ドメインがない場合であっても、わざわざJASRACを語るメールアドレスにするということは、社会的な常識からありえないでしょう。

この件についてJASRACに確認したところ、担当の方からは、JASRACではGmailによるメールの公式的な運用は一切していないという回答が得られました。また、JASRACからYouTubeで起きている侵害行為に対して直接連絡することは、基本的にはないということも仰っていました。さらに、仮にあったとしても必ず ~@jasrac.or.jp になるとのことです。JASRACからの連絡はGmailでは絶対に来ません。

 
 
■当該音楽出版社とは過去に連絡済み
唯一、権利侵害行為があるとすれば「同一性保持権」の侵害です。これについても話すと長くなるので詳しくはググってほしいのですが、要するに原曲通りに再現しない「アレンジ(編曲)・リミックス」をして良いかどうかの判断はJASRACの管理外で、権利者がOKするか否かに委ねられています。ここに関しては、YouTubeにおいて多く権利者が「基本スルー」という姿勢が実情のようです。削除することに利益がなく、そういった事務作業による時間と労力が不利益であるものだと思われます。

広告掲載によって著作権使用料が得られる場合があるので「削除しないけどウチが権利持ってる曲使ってるよー」という連絡が来ることもあるでしょう。この場合は動画アップロード者にも権利者にも利益があり、共存する方向となります。原盤を使用していない限り、多くはここに落ち着いています。また、例外的に先んじて注意事項を出している権利者もいます。そういったものに関してもJASRACのウェブサイトに掲載されていますので、ぜひ確認してみてください。

まったく関係ない第三者が楽曲権利を主張し、広告料を得ようとしてくるケースもあります。この場合、アップロード者の実害はほとんどありませんが、本来の権利者に行き渡るはずの金銭が得体の知れない何者かに奪われている可能性があります。まったく関係ない第三者によって広告が掲載されてしまった場合も、ぜひ異議を申し立ててほしいと思います。

話をもとに戻します。

しっかりと公にはしていませんでしたが、今回、著作権侵害であると指摘された動画の使用曲は、制作当初、配信による販売を予定していました。カバー楽曲を正規ルートで有料販売するにあたり、私たちは楽曲を管理する音楽出版社に事前に問い合わせており、当該楽曲のアレンジ・カバーを行う許可を得ていました。しかし、企業ではない私たちがカバー楽曲の有料販売(配信)するにあたって、さまざまな問題や大人の事情がクリアしきれませんでした。結果、販売するという企画自体を断念した経緯があります。その経緯を踏まえて、せめてYouTubeで楽曲を公開し、完成した作品を聴いてほしかったということで公開したものです。

繰り返しになりますが、当該楽曲については、カバー・アレンジという状態を踏まえても、その気になれば単曲で配信・販売してもオーケーというところまで許諾を得た状態でした。そのため、著作権侵害を訴えられ、動画削除という強行的な手段を取られたことに違和感を覚えましたし、もし何か問題があったとすれば、違う手段で連絡をくれたはずです。

 
 
■不当削除であることを確信したため、異議申し立てを実施
権利者からの申請による動画削除は、チャンネル(ユーザー)にペナルティーがつきます。それが不当な削除であっても、です。

私たちの動画に著作権侵害行為は一切ありませんので、ペナルティーを覆すためにも、削除に対する異議申し立てを11月26日中に実施しました。同29日には、以下のように申請者への送付完了通知が届きました。

 

S-TRIBE Channel 様

異議申し立て通知をお送りいただきありがとうございます。削除通知の送付者に転送いたしました。

なお、この異議申し立て通知を提出すると、正式な法的手続きが開始されます。YouTube は法律に従ってこの手続きを処理します。この手続きには時間がかかる場合がありますので、しばらくお待ちくださいますようお願いいたします。

申立人にこの異議申し立てを転送後、申立人はその日から 10~14 営業日以内に、お客様による当該動画の復元を差し止めるために裁判所への請求を行ったという証拠を提出する必要があります。

この期限までに申立人から回答がなかった場合は、お客様の動画は復元され、アカウントに科された関連のペナルティも取り消されます。

 
尚、私たちが送付した異議の内容は以下の通りです。文中の一部に個人情報が入るため、スクリーンショットではなく、引用・一部改変となることをご了承ください(内容はほぼそのままです)。

 

当該動画で使用する「City Hunter ~愛よ消えないで~」は、原盤の音源を一切使用しておらず、オリジナルで制作したオケ音源を使用したカバー歌唱をメインとする動画です。原盤権は一切侵害しておりません。

また、当該楽曲はJASRACにてインタラクティブ配信に関する信託契約を締結しているため、JASRACと包括契約を締結しているYouTubeであれば、原盤を使用しない自作音源を公開しても問題ありません。

さらに、私は昨年2月頃にスタンダップ音楽出版様に電話にて直接、当該楽曲のアレンジカバーについて、配信販売など商用利用を含むインタラクティブ配信の許可を得ており、著作者人格権の侵害等についても問題ないものと考えます。

これらについては、JASRACに相談済みです。JASRACがこのような警告を行う際はGmailは絶対に使わないとの確認を得ておりますので、今回のメールの送信先 jasrac.sakujo@~ のようにJASRACからの警告をであるかのように見せているとなると、より大きな問題となる場合があります。

速やかに削除を取り下げて頂きたく思います。 申立人が、本当にスタンダップ音楽出版である場合は、一度電話にてお話をさせて頂きたく思いますので、ぜひ連絡をください。よろしくお願い申し上げます。

 
このあとに以下の文言が自動的に付随され、本名や住所が記載されます。

 

私は、誤認または取り違えにより、このコンテンツが削除または無効にされたことを確信しております。

私は、住所がある地域(または住所が米国以外の場合は、YouTube が所在する司法管轄地区)の連邦地方裁判所の管轄権に合意し、請求者からの訴状の送達を受理します。

 
紛らわしいのは、すぐに法廷で争うといったことにはならないという点です。動画削除申請者は、異議申し立てが不当であるという場合、動画復元を差し止める請求を裁判所に提出し、その提出書類の一部などをYouTubeに10~14営業日(最大3週間程度)内に提出しなければなりません。法廷で争う・争わないは、それが行われた場合のあとの問題です。

また、異議申し立ての前に、相手に連絡を取ることができます。そこで穏便に解決できたり、あるいは納得して削除を受け入れたりといった結論に至れば、裁判所が云々といった話になることもありません。今回、リスクがある異議申し立てせざるを得なかったのは、相手の連絡先がJASRACを語る胡散臭いメールアドレスのみで、メールでのやりとりが十分にできるとは思えなかったためです。

結果は、最初に書いた通りで、14営業日以内に先方からの書類提出も、こちらから要求した連絡も一切なかったため、無事に動画が復元しました。状況として考えられるのは、相手連絡先のメールアドレスなどが機能していなかった、もしくは、こちらの異議申し立てを受け入れた、この2点でしょうか。

 

▲12月14日に届いたメール

 
 
今回、備忘録的にここに記事を残したのは、YouTubeは手軽にいろいろなことができる分、さまざまな知識を持って自衛する必要性が高いためです。実際にどのように対処したかを具体的に広めて共有できれば、同じようなケースの対処法の参考になるのではないかと思いました。また、勝手に広告を入れてくるヤツらも概ね同じで、権利者じゃないのに権利者を名乗って、広告料で収益を得ようとしています。

ストップ・ザ・泣き寝入り。あなたの作品で、あなたでも権利者でもない、誰だかよくわからない第三者がウハウハしています。それを止めることができるのは、動画のアップロード者だけです。泣き寝入りするユーザーが1人でも減ることを心から願っています。

以下に、今回の動画復元に至るまでのポイントをまとめましたので、ぜひ参考にしてみてください。

 

★ポイント
・突然動画が削除された!
 →削除理由は納得できるものか?
 →削除申請者は本物か?

・削除理由が納得できない!
 →法的な根拠やYouTubeの規約などはちゃんと理解しているか?
 →音楽著作権の侵害の場合、JASRACなどで楽曲の管理状況を確認したか?

・削除申請者が胡散臭い
 →怪しい名前や会社は、まずググって類似の迷惑事例がないか調べる
 →その他に相手への連絡手段があったら、そこから削除申請を出したかメールなどで確認を取る

【削除が不当であると確信した場合】
・異議申し立てを実施する
 →不当性をしっかり説明できるか?
 →自分の個人情報を相手に与えるリスクは承知できるか?
 →不当じゃなかった場合のリスクが非常に大きいことを納得できるか?

⇒相手から連絡がない場合
3週間程度で動画が復元!チャンネルへのペナルティーもなし!

 
 
[2020年12月18日]一部表現を修正しました